AA01 プレスカブ FI車 を全波整流化 ②

純正レギュレータの動きを分析する

前回まででジェネレータを全波整流器につなぐ算段は出来たので整流後の直流をどのようにつないでいくかと、灯火系への給電方法を検討する。
そのためには純正のレギュレータがどのような動きをするのか、外して全波整流器に置き換えても影響が無いのか、灯火系はどうなっているのかを分析していく。
純正レギュレータの各端子の働きを見ていく。
キーオフ、キーオン/エンジンOFF、キーオン/エンジンONのそれぞれの状態でどうなっているかを確認。
1、キーオフ
・白線 0V
・黒/赤 0v
・赤線 DC11v
・赤/白 DC12.8v(バッテリー電圧)
・黄線 0v
白はエンジンが回っていないので当然0v、赤/白はバッテリー電圧がかかっている。注目は赤で、バッテリー電圧より若干低い値が出ている。
2、キーオン/エンジンOFF
・白線 0V
・黒/赤 DC12.8v前後
・赤線 DC11v
・赤/白 DC12.8v前後(バッテリー電圧)
・黄線 0v
ここで変化するのはメインスイッチのONによってライティングカットリレーがONとなる。黒/赤にバッテリー電圧がかかる。
3,キーオン/エンジンON
・白線 AC17V前後
・黒/赤 DC13v前後
・赤線 DC11v
・赤/白 DC13v前後(バッテリー電圧)
・黄線 AC-13v 前後
ジェネレータからは交流電圧がかかっているアイドリングで17vくらい4000回転程度まで上げると40v程度来ている。黒/赤、赤/白は整流後の減圧された直流電圧がかかっている。
黄線はなんと交流のマイナス12Vが来ていた。この状態から推測されるのは交流の波のプラス側をチャージ系、マイナス側を灯火系に振り分けているものと考えられる。そして赤線はほぼ一定の11V台であることから、ECUなどの電子装備を過電圧や交流ノイズなどによる動作不良や破壊しないよう定電圧電源回路が間に噛んでいると思われる。
非常時、いわゆるバッテリー上がりが起きた時にどうなるかを検証してみる。
バッテリーを取り外した状態で検証する。
1、キーオフ
・白線 0V
・黒/赤 0v
・赤線 0v
・赤/白 0v
・黄線 0v
電源が一切ないのですべて0vとなる。
2、キーオン/エンジンOFF
・白線 0V
・黒/赤 0v
・赤線 0v
・赤/白 0v
・黄線 0v
キーオンにしてもバッテリーが無いのですべて0vであるが、電源が無いため、ライティングカットリレーも動作せず接点は解放のままとなっている。
3,キーオン/エンジンON
・白線 AC17V前後
・黒/赤 DC13v前後
・赤線 DC11v
・赤/白 DC13v前後
・黄線 AC-12v前後
1回目のキックでは始動せず、2回目のキックで始動した。これはFIの制御で1回目で燃料ポンプを動作させて燃圧を上げ、2回目で噴射と点火を行う動作がプログラムされていると聞く。また、動作電力を確保するためのコンデンサが内部に設けられていると推測される。キックした電力とキャパシタ容量だけではポンプと噴射、点火を行う電力が足らないので2回に分けているのだろうか。
純正レギュレータの中はどうなっているのか
これまでの検証で大まかなことは分かったが、まだよくわからないのはライティングカットリレーの存在と黒/赤、赤線、赤/白の各線がどんな意味を持つのか。これを検証していく。
1、 黒/赤、赤線、赤/白 の各間で導通テストを行ってみる。

すべての道は赤に通ずる。が、黒/赤、赤/白間は導通が無かった。赤/白はバッテリーからレギュレータへの給電だけが目的のようである。また、黒/赤はジェネレータで発電された電力のチャージ系出力と見られる。そしてレギュレータの内部で整流後のチャージ系から直接バッテリー系へつながる回路は無く、赤線への片方向のみ通電可能となっている。

これもまたネットの海から拾い上げたものであるが、上記検証結果の通り赤/白はバッテリ入力となっており、レギュレータを通してFI出力につながっている。黒/赤はバッテリ出力で合っている。謎だった桃/黒はECUとつながっており、バッテリー電圧などを監視している制御信号と思われる。
これで純正レギュレータの動きや役割は全て把握できた。
2、ライティングカットリレーの意味
この名称にかなり惑わされた。ぱっと見では灯火系を制御するリレーかと思うが実は全く違っていた。
赤線の安定化された電力はFIと点火系のみに給電されている。メインスイッチも分かれていて完全に独立している。これは非常時動作に関係していると考えられる。バッテリーからの電力が無い状態でキックだけで発電できる電力は限られている。この状態ですべての電装品がつながっていると余分に電力が食われ、始動性が悪化する。
バッテリー電圧が無い、若しくは弱い状態ではライティングカットリレーをOFFし、バッテリーを含めたエンジン始動と直接的に関係ないその他電装をFI系から切離して、すべての発電電力がFI系に行くようにするためのリレーであると考えられる。このリレーの動作はエンジンコントロールユニットが行っており、エンジンが始動してから遅延してリレーONになるようプログラムされていると思われる。
3、灯火系がマイナス交流である意味
非常時の始動性を上げるためにジェネレータコイルから灯火系を取り出すことを辞めたが、では一体どこから灯火系電力を確保するのか。今まで捨てていた半端整流のマイナス側を拾って白熱電球を灯す。これはチャージ系で作り上げた仕組みに一切影響を出さず、必要最小限の仕組みだけで灯火系を確保する画期的なアイデアである。
この回路を考えた人はすごい
個人的に色々な回路を見たり触ったり作ったりしてきたが、正直この回路構成には驚きが何か所もあった。
一つ目は灯火系にマイナス交流を使うという事。白熱電球だからできる技だと思った。
二つ目はシングルコイルにして発電力を高めてあること。途中で灯火系に分岐しているとその分の電力を灯火系に食われてしまう。非常時の始動性を上げるためにすべての電力をコントロールできるようにしておきながら、とてもシンプルな構成でこれ以上簡素化できるとは思えないほど洗練されたデザインである。
三つ目はFI系には定電圧電源が用いられていること。恐らくコンデンサも入れて平滑もしていると思われる。そしてその蓄電機能を利用した非常時の始動性向上という良い所2重取りまでされている。繊細なECUが壊れないようにというのもあるが、やはり実用車としての信頼性確保だろう。今までは機械仕掛けで壊れにくかったものが電子化されて、何があってもエンジンがかかるようにする、機械仕掛け並みの耐久性を目指すというのを考えに考え抜いた結果だと思う。
コストを掛ける部分と簡素化する部分のメリハリがハッキリしていて、それでいてかしこい工夫や今までの経験が活かされている。私の知識や経験は少ないので詳しい人から見ればまた違うのかもしれないが、この回路はとても素晴らしくマニアックでスーパーカブを作り続けてきたホンダだからできたのかもしれないと思った。
次回はこの分析結果を踏まえた全波整流回路の設計を行う。
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